2014年1月9日木曜日

新年のご挨拶とムーチー(鬼餅)について

新玉ぬ年に 炭とぅ昆布飾てぃ 心から姿 若くなゆさ
(あらたまぬとぅしに たんとぅくぶかじゃてぃ くくるからしがた わかくなゆさ)

お正月に詠まれる琉歌です。「新しい年の初めに炭と昆布を飾って、幸福に満ちた一年を祈ります。そうすれば、身も心もますます若くなります。めでたし!めでたし!」という意味です。沖縄では結婚式などの祝儀の際に踊る『かぢゃやでぃ風』の旋律にのせて、三線の伴奏で唄われます。


さて、松の内が過ぎ、1月8日は旧暦の12月8日、ムーチー(鬼餅)でした。ムーチーとは餅を黒糖や紅イモなどで味付けして、サンニン(月桃)の葉で巻いて蒸したものです。最近まで月桃の葉で餅を巻くのは、沖縄と奄美だけだと思っていました。

数年前、鹿児島県指宿市の今和泉島津家の領地だった集落を歩いていると…どの家にもサンニン(月桃)が植えられています。同行してくれた鹿児島の友人に尋ねると、沖縄と同じようにサンニンの葉で餅を包み、蒸して食べることもあるのだそうです。勝手な推測ですが、つけあげや薩摩イモのように、琉球から薩摩に伝わったのではないかと思います。

それではムーチーの由来を少しばかり・・・


昔々のその昔、首里の金城という部落に仲の良い兄と妹が住んでいました。ある日、兄は大里村に引っ越し、人の寄り付かないガマ(洞窟)に住みつきました。そして、夜な夜な村を襲い、人を食べる鬼になってしまいました。そんな噂を伝え聞いた妹は兄の行いに心を痛めて何とかやめさせようと思い、兄の住む大里村のガマを訪ねて行きました。「ニイニイ、ワンルゥヤンロー(お兄さん、私だよ)」。妹はガマの前で大きな声で呼びました。どうやら兄はいないみたいです。そこで妹はガマの中に入ってみました。

すると…何とも言えない悪臭がします。ガマの中には人間の骨が転がっていて、世間の噂どうり、兄が人を食べていることが分かりました。妹は怖しくなり、そのガマから早く逃げようと思いました。しかし運悪く、ガマを出たところで兄に見つかってしまいました。その姿にはかつての優しかった兄の面影はなく、口は耳元まで裂けて牙が生え、目はギラギラとしていて、正に鬼そのものでした。「おい妹、何で逃げるか。村を襲って、人間の肉を食べに行こう」。妹は逃げることができませんでした。

「ニイニイ、イヒグヮーマッチョウケー(お兄さん、ちょっと待ってね)。外でおしっこしてくるさー」と、妹はとっさに言いました。でも鬼になった兄は妹が逃げようとしているのではないかと疑い、「ここでやれ」と言いました。しかし妹は「恥ずかしいさー。お兄さんの前でできるわけないさー」。そこで鬼になった兄は、妹の手を綱で結びました。妹はすぐ外に出て、おしっこをするふりをして綱をほどきました。そして、その綱を木に縛りつけて必死に逃げました。

ガマの中にいる鬼になった兄は、「ニーサヌ、ヌーソーガ(遅い。何をしているか…」と、ガマの外に妹を捜しに行きました。すると、綱は木に結ばれていて、妹は逃げたあとでした。「エー、クニヒャー、マテー(おい、このやろう、待てー)」と大声で叫びながら後を追いましたが、妹の姿をみつけることはできませんでした。 

数日後、鬼になった兄は逃げた妹を食べてやろうと首里金城の家へやってきました。一方、妹は「愛する兄が人を襲って食べるのをやめさせようと思い、一計を案じました。自分の餅は普通につくり、鬼になった兄に食べさせる方は餅の中に鉄くぎを入れて、どんな鬼でも食べられないような「鉄くぎ入りの餅」にしました。 

「お兄さん、この前はごめんね。おいしい餅をたくさんつくったから、これを食べて許してね。じゃあ、外で食べようか」と、妹は鬼になった兄を誘い出し、崖の近くに連れて行きました。「ウサガミソーレー(どうぞ食べて下さい)」と、鉄くぎ入りの餅を鬼になった兄に勧めました。

そして妹は、先に自分から普通の餅を美味しそうに食べてみせました。ところが、鉄くぎの入った餅を食べようとした鬼になった兄は、噛むことも、飲み込むこともできずに困ってしまいました。どうして自分が食べることができない餅を妹がおいしそうに食べているのか・・・鬼になった兄は妹が恐ろしくなりました。そして餅を食べるのに悪戦苦闘しながら、ふと見ると、妹の着物がはだけたとこから陰部が見えました。そして「妹よ、お前には下にも口があるのか…?」と尋ねました。

すると妹は大きな声で叫びました。「上の口は餅を食べる口です。そして下の口は、鬼を食べる口です」。叫ぶと同時に妹は着物をまくりあげて下半身をはだけ、鬼になった兄に向かっていきました。驚いた鬼は崖の方へと逃げ、そのまま落ちて死んでしまいました。   

この鬼を退治した日が旧暦の12月8日です。沖縄ではその日を厄払いの日として鬼餅(ムーチー)を作って食べます。また、その年に子どもの生まれた家庭では、生まれた子どもの健康を願ってムーチーをつくります。


 それでは新しい年に炭と昆布を飾り、そして厄払いのムーチーを食べて、元気に過ごしてくださいね。皆々さまの健康と御多幸をお祈り申し上げます。



若狭公民館・地域サポートわかさ 職員一同